ギャップ・イヤーは労働市場に革命を起こせるか? | 政治の世界、はじめの一歩
ギャップ・イヤーは労働市場に革命を起こせるか? | 政治の世界、はじめの一歩
「職業選択の自由、人生選択も自由」
今年のソニーの新卒採用スタンスがネット上で話題になっています。
端的に言うと、
「来年3月に卒業する学生のみの一括採用をやめて、
卒業から3年以内の学生をすべて「新卒」とみなして採用活動する」
というもの。
この制度は海外では「Gap Year(ギャップ・イヤー)」として知られており、
日本よりはかなり一般的のようです。
実は僕が学生のとき(6年前)にも少しだけ話題になった時期がありまして、
「日本にもギャップイヤーを!」という運動をしていた団体もあったのですが(今もあるけど)、
その時は今ほど話題にならず、ソニーのような企業も現れず、その動きは沈静化しました。
ギャップイヤーをどう思うかと言われれば、もちろん賛成です。
そもそも「新卒一括採用」というシステム自体が極めて日本的で特異なシステムですし、
多様性という観点からもこうしたキャリアの選び方は推奨されるべきだと思います。
しかし、一部で盛り上がっているような
「革命的な制度だ!」
「ギャップイヤーこそが、働き方を変える!」
というのは、少し違うと感じています。
ギャップイヤーが重要なものであるのは間違いありませんが、
厳しい見方をすれば多岐に渡る労働問題の各論の一つに過ぎません。
この「ギャップイヤー」という制度を初めて聞いたとき、僕は何かに似てるなと思いました。
何と似ているのでしょう?
そう、産休(育休)を取得する女性のキャリアです。
どのようにミシェルカプランのようなアートワークを作成するギャップイヤーの要点は、一本のレールに縛られず、
少しくらい寄り道や空白期間があっても、そこで得てきた経験を
仕事に活かしてキャリアを築こう!というものです。
この考えを何よりも求めてきたのは、出産を希望する女性たちでしょう。
欧米では、妊娠・出産をきっかけに退職するものの、子育て期間で貴重な経験を積み、
また違う企業に(日本でいうところの正社員として)再就職することも珍しくありません。
ところが日本では、キャリアの空白は許されません。
妊娠を機に退職すれば、ほとんどの人は再度働くとしてもパートタイマー。
子持ちの女性が正社員として再就職することは、極めて難しいのが現実です。
もともといる企業に残ったとしても、あってはならないことですが、
妊娠・出産前と同様のキャリアを築いていくことは難しくなります。
一戦から退いた期間を理由に閑職に回される例は、枚挙に暇がありません。
ことほど左様に日本の労働市場は、「道から外れる」ことを極端に嫌います。
大学生は卒業したら、正社員として企業にすぐ入る。そして、定年まで過不足なく勤め上げる。
一度でもその「正社員」というレールから外れたら、元に戻るのは極めて厳しい。
転職も留学もダメ。産休取得にも、目に見えないプレッシャーがかけられる…。
そう、つまり最大の問題点は、労働市場が硬直化していることなのです。
転職や退職、そして再就職という「流れ(流動性)」がしっかりと確保されることが、
これからグローバル化・多様性の時代に何より求められていることです。
であれば、このキャリア・労働問題における「ボーリングのセンターピン」はどこか?
僕は「解雇規制の緩和(≒正社員特権の剥奪)」だと考えます。
何度か本コラムでも言及しましたが、日本は正社員の待遇が手厚すぎ、既得権益化しています。
有名な「整理解雇の四要件」のように、いちど正社員という「身分」を獲得すれば、
(法的には)企業はまずその従業員を解雇することができません。
高度経済成長期に日本を支えたこの「終身雇用を前提とする仕組み」は、
しかし、限界を迎えていることは明らかです。
これからはその状況と必要に応じて、人材を流動化していかなければなりません。
「企業が簡単に人をクビにできる」と言えば聞こえが悪いですが、転職が一般的になれば、
そもそも一つの企業に拘泥する理由もなくなるでしょう。
左派政党は派遣社員の正社員化などを主張しますが、逆です。
乱暴な言い方をすれば、「同一賃金、同一労働」の大原則に基づき
すべての人々が派遣社員になると考えれば良いのです。
そこで生まれるのは、健全な競争です。
必要なスキルを持った人が、必要とされる場所で働く。
それが終われば出ていく。また新しいニーズのあるところに異動する。
「レール」はなくなり、ギャップイヤーだろうが産休だろうが自由。
大事なのは紙の上での経歴や「正社員」などという肩書きではなく、
本当の意味での『経験』やその人が持つスキルになる…。
これが、硬直化した今の日本を活性化させる、
ほとんど唯一無二の方策だと言えるでしょう。
–
話を元に戻します。
"王子の杖とは何か"労働市場が硬直化してもっとも割を食っているのは、言うまでもなく学生(若者)です。
企業はオジサンたちを解雇するためには、新卒採用を停止しなければいけません。
若者は職を失い、正社員は定年まで会社に居残り、退職金をたっぷりもらってゆっくり退場する。
こうした状況下で、「新卒」という枠ではすでに3割以上が職を得られない中、
出てきた悲鳴のような叫びが「ギャップイヤー」なのではないでしょうか。
しかしながら述べてきたように、根本的な問題は内部にあります。
いくら入り口で改革(ギャップイヤー)を叫んでも、出口(解雇規制)をしっかり開けなければ、
行き詰まってしまうことは残念ながら目に見えています。
それでもこれは、大きなチャンスです。
この日本の硬直化したシステムは、特に出産を考える女性たちにとって、
これまでも決して小さくない問題でした。しかしそれは単に「問題のごく一部」として扱われ、
大きく社会問題化することも話題に取り上げられることも、あまり多くありませんでした。
この労働市場の問題が若者全体にまで波及したことで、
いま社会はこれまでにないほどこの問題に注目を集めています。
それが今回、ソニーが話題にのぼっている理由の一端だと思います。
就職難も、ギャップイヤーも、産休取得困難も、再就職難も、すべての根幹は一緒です。
若者や女性たち、利害関係者は一致団結して、「正社員」という特権にNOを突きつけて、
労働市場の流動化を進めるべく声をあげていくべきではないでしょうか。
…なんか終盤が市民団体のスローガンみたくなっていまいましたが、
最後に英国王立員会の発言を引用して終わりにしたいと思います。
「若者が減る社会は危険なほど革新的でなくなり、
技術や豊かさ、知識や芸術面でも遅れを取る」
(英国王立委員会報告/1949)
若者たちの就職難や、女性のキャリア問題も解決して、
彼らが持っている本来の力を発揮できる社会を創っていく。
願うだけではなく、自らも主体性をもってこうした問題に取り組んでいく1年にしたいと思います。
–
というわけで、今さらながら明けましておめでとうございます!
何気にtwitterやFacebookのリアクションを楽しみにしてますので、
本年もオトキタ並びに本コラムを、どうぞ宜しくお願い致します。
敬具
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