2012年4月6日金曜日


オペラ雑記帖


その1 オペラのレパートリー

 ほとんど無国籍に有名オペラは何でも出してしまうアメリカとイギリスのオペラハウスを除けば、多かれ少なかれ出し物に偏りが出てきます。国産オペラがまだまだレパートリーに定着していない日本もこの無国籍オペラの傾向にあるのは仕方ないところでしょう。ウィーンの国立劇場でアバドが就任してからは、ホーヴァンシチーナなどのロシア物とか現代物が多くなって少なからぬ不満が出たのももっともで、ウィーンだってワーグナーなどドイツオペラが主流なのです。(小沢さんが大将になったらどうレパートリーが変わるのか今から楽しみですね)ですからドイツのオペラハウスではドイツ物、イタリアのオペラハウスではイタリア物が多くなる のはこれは人情という物でしょう。実際、スカラ座でヴェルディの切符をとるのは至難の業かもしれませんが、ウェーバーあたりのプログラムだと簡単だ、というのはよく知られたところで、やっぱりご当地物が人気が高いわけで劇場だってそっちにあわせるわけです。

 ところでオペラ上演のシステムには大きく2つのシステムがあるのはご存じの通り。同じ演目を客が来なくなるまで繰り返し上演するスタジオーネシステムと毎晩出し物をかえつつ、一定のレパートリーに毎年何作か加えてシーズン中は毎晩上演していくのがレパートリーシステムです。

 滅茶苦茶大ざっぱに言うとイタリアあたりの劇場ではスタジオーネシステム、ドイツ、ウィーンではレパートリーシステムになっているようです。短期間で多くの演目が楽しめるレパートリーシステムの方が、観る方にとってはお得のような気がしますが、毎晩舞台装置を入れ替えたりする手間がかかるのでコストも上がってしまうのもまた事実のようです。ウィーンなどでは大きな劇場専用のトラックが狭い路地を曲がって劇場の袖に横付けされるのをよく見かけます。

 本物のオペラハウスはこのようにはっきりシステムが分かれるのですが、ではCDだのLDだので楽しむ「マイホーム(マイルーム)・オペラ」はどちらでしょうか?

 あるCDを買ってきたらしばらくそのオペラばかりを繰り返し飽きるまで聴くというタイプはスタジオーネシステム。とにかく毎晩違うオペラをとっかえひっかえ聴くのはレパートリーシステム、に似ていますね。あなたはどちらのタイプでしょうか?


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 えっ?お前はどうかって?  そりゃもちろんレパートリーシステムです。毎晩とまでは行きませんがとっかえひっかえCDをかけているわけですから。で、現在上演可能なレパートリー(演目数)は、いま数えてみたら...130!!!うーん、こんなにあるとは知らなかった。同曲異演奏は含んでいないのでそれを入れるともう少し増えますが、よくこんなに買い込んだものです。道理で貯金が増えないわけです。

 ウィーン国立歌劇場の毎年のレパートリーが70くらいですから、知らない間に集まったとはいえ大抵のオペラはそろってしまった勘定になるのですがそれでもまだ、聴きたい(観たい)オペラは星の数ほどあるので、我ながらあきれるところです...

その2 オペラとアイスクリームの熱い関係

パリで足繁くオペラに通っていた頃のお話。

 シーズン始めにほとんどすべての演目のチケットを押さえてしまう私のオペラ通いは、楽しみというよりほとんど修行に近いものがありました。とにかく観に行く!!

 まあ演目によっては友人にチケットを頼まれたりするのですが、大半は一人で行くことになります。(何しろ修行ですから...あまり他人を巻き込むものではないのです。)

 一人でオペラに行く、というのは日本ではまあふつうの光景ですが、あちらではどうしてもペアが基本。ひとりものは肩身が狭い。肩身が狭いのはいいのですが困るのは幕間の時間のつぶし方。時には知り合いとばったり出会ったりして話が弾んだりするのですが、誰もいないと一人ぼっちで20分なり30分なりの休憩時間を過ごすことになります。特に長いオペラだと食事をとるために休憩時間が長めにとってあったりするので、その間、パンフレットを読んだり、あらかじめ持ち込んだ資料などを読んだり、はなはだしきはこっそり録音したテープをチェックしたりして時間をつぶすこととなるわけです。

 でも生来卑しいせいか、必ず何か食べたくなったり飲みたくなったりするもの。別に幕の間息を詰めているわけではないのですが、なぜかオペラはのどが渇きます。連れ合いに女性でもいればシャンペンなどを飲んでゆったり過ごせばいいのですが、一人ではそうも行きません。

 というわけで、ある時、幕間にはアイスクリームを食べよう!と決めたことがあります。ヨーロッパの歌劇場ではなぜかちいさなカップに入ったアイスクリームを販売しているところが多いのです。


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 大概のオペラの休憩はせいぜい2回なので、オペラに行くたびにアイスクリームを1個か2個食べることになりました。幕が閉まると同時に外に飛び出してアイスクリームを買ってロビーの隅っこで食べる。まあよく見てみると同じことをやっている人もいないでもありませんでした。

 当時シャンゼリゼ劇場では毎年、ロシアシリーズ(Saison Russe)と称してロシアからキーロフオペラなどの引っ越し公演を行っていました。当然全演目のチケットを押さえているので、シーズン中はかなりの回数同じ劇場に続けて足を運ぶことになります。また、一気にチケットを押さえるので座席だってほぼ一緒。自分の特別席のような錯覚に陥りますが、そうなるとアイスクリームの売り子のおばさんも同じ人に当たることになり、もうすっかり顔なじみ。何しろ幕間毎に買いにくる東洋人だから一発で覚えてもらえます。

 ある時、いつものように劇場に駆け込み、パンフレットを買った私は目を見張りました。なんとこのオペラ(多分ムソルグスキーだったと思います)、休憩が5回もあります!!

 一つ、二つ、と幕が閉まるたびにアイスクリームを食べに行きました。買いに行くたびに、売り子のおばさんがにやにや笑っている。「ムッシュー、いつもの奴ね?」「ウィ、マダム」てな調子でやっているわけですが、目が「あんた今日は5個も食べる気?」とはっきり言っているのです。こうなればこちらも意地が出てきて...

 第3幕が終わる頃、こちらのおなかの調子がおかしくなりかけましたが、そこは根性で、結局その日は5つのアイスクリームをおなかに詰め込んでオペラもそぞろで帰ってきたのでありました。

 しかし幕間のアイスクリームの味は忘れません。ミュンヘンで「ニーベルングの指輪」を観たときは通算何個アイスクリームを食べたのか?ちょっと計算してみてください(笑)

その3 腹が減ってはオペラは観れぬ

いかに幕間でアイスクリームを食べるにしろ、短いものでも2時間、ワーグナーなど長いもので4時間もかかるオペラを見に行くには、それなりの覚悟が必要です。「オペラに出かけるときに、いつ、どこで、何を食べるか」これはオペラそのものよりも大事な問題なのです。


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 日本では終演後最終電車に間に合うようにするためか、開幕時間が結構早いですね。その前に何をかき込んでいくのか、日本なら立ち食いそばもあればファーストフードもありますが、時々見かけるのは休憩時間にロビーの隅で黙々とお弁当を食べているサラリーマンとおぼしき方。これなんか「大切なのはオペラだ!芸術だ!」というストイックな感じがして好感が持てるのですが。

 パリでオペラに通っていた頃、バスティーユの方はともかくガルニエ座とオペラコミック、コメディフランセーズのかたまるオペラ界隈に出撃するときは近所の日本食レストランでラーメンだのカツ丼などをかき込んでからオペラに行く、とうのが定番でした。何しろ日本食の方がサービスが早いので確実なのです。(一度中華料理を食べよう!ということになったのですが危うく遅れそうになりました。それでも「スープから何から、みーんないっぺんに持ってこい!」というとウェイターがびっくりしていました。)

 もっともご飯を食べてからオペラに行く、という手順が全く不可能な日程だってあります。マイスタージンガーなどワーグナーのオペラで開幕時間が午後4時なんてことだってあります。これは、「晩飯は終幕のあと食べましょうね。幕間で間食などしてはいけません。」という時間設定です。ほとんどマチネーみたいな時間ですが、こういうときは昼飯をゆっくり食べて、お茶を飲んでそれからおもむろに劇場に向かうというのが正しいスタイルだと思います。

 さて、長いオペラだと途中の休憩が40分など長めにとってあり、あらかじめ予約しておいてオードブルなどをいただく、というのが普通のパターン。劇場内のレストランやロビーにセットされたテーブルを予約して友人どうして食事をともにするというのが基本です。これはこれで楽しいのですが、「やっぱりお弁当は日本食に限るもんね!」という向きにはさすがに日本のようにロビーの片隅で食べるわけには行きません。(やったら目立つでしょうね)

 ある時、友人とそのまた友人達とロンドンはコヴェントガーデンに出かけました。出し物はワーグナーの「神々の黄昏」。ながーいオペラの中でも1,2をあらそう長さです。当然途中で食事休憩がはいります。このとき、何を思ったのか「トンカツを食べよう!」と言い出した奴が居ました。えぇっ、本当に食べるの?と思って私と友人は二階席へ、その他の人たちは別に押さえてあったボックス席に落ち着きました。


 長い長いプロローグと第1幕がおわり、そろそろ例によってアイスクリームを、と思ってロビーに出ようとすると、下の方からなにやら変なにおいがします。そう、4人の日本人がトンカツ弁当を広げてたのです!なんとみそ汁まで持ち込んでいる。さすがにロンドン。何でも手にはいるのにはびっくりですが、うーん、さすがにホコリのにおいが漂うコヴェントガーデンでは強烈なにおいだ。

 周りの英国人達も気がついて眉をしかめていますが、ボックスのドアを開けて入ってきたドアマンは一言。「下に落っこちると迷惑だから弁当を手すりの上に置いてはいけない。」それだけ言って消えていったのは立派でした。さすがに大英帝国の国立劇場。「そんなもの食うな」とはいえなかったらしい...

 ともあれ、オペラと食事は切っても切れない関係です。新国立劇場のこけら落としに同僚と出かけたときのお話。「ここは一つ優雅に決めよう!」ということで、職場から息せき切って駆けつけた我々は幕間にはきちんとワインを飲み、アイスクリームを食べ終演を待ちました。もちろん、途中で劇場内のレストランを予約するという手抜かりのなさ。

 これまたながーいオペラが終わり、レストランで優雅に食事を始めたのはもう10時頃。でも二人ともフランスでさんざん鍛えているので遅飯は慣れっこです。お客は...ほとんど我々だけでお店にはお気の毒のような感じ。でも食事はなかなかおいしく、オペラや歌舞伎のはなしで盛り上がり楽しいひとときでした。

 が、あまりにフランス式にのんびりやったためか、気がつくともうとっくに終電が終わった後。二人してとぼとぼとタクシーを探して雨の中をさまようのはなんだかわびしさを通り越して滑稽でした。

 オペラを楽しむのには周りの環境だって大事なのです。せめて夜中の1時頃まで交通機関がないとオペラ+食事などは楽しめないのかもしれません。
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